「倍速のことを考えて!」タイパ視聴ユーザーに作り手はどう向き合うか

ギョーカイ話
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タイパ、コスパ、大切です。金持ちも貧乏人も国王も罪人も、等しく1日は24時間。コンテンツ溢れる世の中で、時間の有効活用は生きていく上でかなり重要なスキルとなってきています。

昨年、こちらの本が話題になり「映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形 (光文社新書)」映画の倍速視聴がどうやこうやという記事が沢山出ましたが、今日旧ツイッターことXで声優の池澤春菜さんがこんなことをポストしていました。

ボイスラッガー、大好きでした。

「倍速だと聞きづらいから、朗読のスピードをもうすこし一定にしてほしい」

ユーザーの意見としてはわかります。若者でない私でもYouTubeは1.5倍速で見ますから。でも演じる方としてはカチンと来ますわなこれは。

「アレンジグルメしにくいから、味を平凡にしてほしい」

って料理人に言うようなものでしょうか。

私もラジオ時代はたくさんのラジオドラマやラジオCDを作ってきました。セリフの間や効果音のタイミングに命を懸けていたといっても過言ではありません。だから、作品を倍速で消費するな!っていう作り手の気持ちは分かるつもりです。

とはいえ、現在ネットニュースを作ってお給料をもらっている身としては、「スマホに合わせた記事の短さとは」「スマホで見やすいビジュアルとは」「ユーザーに喜ばれるタイパコンテンツとは」みたいなことを毎日考えているわけです。大いなる矛盾。

等倍で聞くユーザーは48.5%

こんなデータがありました。

オーディオブックの倍速再生、4年間で1.5倍に増加!聴く読書でも「タイパ」ニーズ高まる<オーディオブック白書2023>

池澤春菜さんが朗読しているAudibleではなく、競合他社のaudiobookのデータですが、このデータに照らし合わせれば、ユーザーさんの「等倍で聞く人なんてまずいない」ってのは思い込みで、「等倍で聞く人は半分しかいない」が正解です。また、倍速以上で聞く人は11.5%と少数派でした。

「つくり手が精魂込めて作ったコンテンツの「間」、半分の人にしか届いていない」

と考えるとかなりのショックですが、長く書いた記事をWEBで最後まで読んでくれる人は半分どころか2割もいれば上出来なので、「半分も届いている」と思ったほうが良いのかもしれません。

僕も加速再生は1.5倍までしか聞き取れませんが、

「オーディオブックを繰り返し聴くことで耳が慣れてくるため、少しずつ加速して聴いていくユーザーが増えていきます」

とのことなので、今後耳が慣れてくると等倍で聞いてくれる人はどんどん減っていくのでしょう。

またこれは推測でしかありませんが、今回の作品が16時間52分という尺だったので、加速再生で聞こうと思ったユーザーが多かったのかも。収録大変だったろうなあ。

ザリガニの鳴くところ – Audible

作り手が客に合わせていく意義

「わたしに読み上げを求めないで」という池澤春菜さんのお気持ちはごもっともです。

ですが実際私は仕事としてユーザーに最適化したコンテンツを作ることを求められていますし、音楽業界もタイパを意識した「イントロなし楽曲・サビ頭楽曲」がブームになっています。これは、音楽サブスクで頭にインパクトが無いとスキップされるから、という理由も大きいですが、記事も同じで、まず頭にインパクトのある結論をもってこい、書き出しで掴まないと下まで誰も読んでくれないぞ!とか口を酸っぱく若手に言い続ける日々だったりします。

新聞業界出身の記者には、長文でガッツリ書いてあることが大切なんだ!俺の文章削るのか!とか言い出す方もいますが、長いと結局読んでもらえないので赤入れまくります。漢字も開きまくります。

かといって私が今「作品」を作るとしたら、音の間にもセリフのスピードにも従来通りこだわるでしょうし、倍速で聞く人のことは考慮しないでしょう。

ソースかけようがラー油かけようが、食べる人の自由、というのはありつつ、そのまま食べて一番美味しい料理を作るのが作り手としてのプロ意識。

熱々だと食べるのに時間かかっちゃうから、冷ましたやつを出そう!冷めても美味しいメニューを作ろう!ってのが、今のタイパコンテンツの考え方で、しかもそれが便利だから流行っちゃうんですよね。

ユーザーファーストって難しい。

映画はスクリーンで見るもの→レンタルビデオ(ブラウン管のテレビ)→パソコン→スマートフォンとユーザーの画面はどんどん小さくなりましたが、「スマホの小さい画面に最適化しよう!」と映画の画作りが変わってしまうのは望まないですよね。

池澤春菜さんだって、スマホゲーム用のセリフはAudibleの朗読とは違う演出をされるでしょう。

TPOに合わせてコンテンツの作り方を変えていくのがプロの仕事ですが、TikTok、YouTubeショートの「タイパ動画」がコンテンツの基本フォーマットとなりつつなる今、タイパ用ではないコンテンツに不満を持つ一般ユーザーとどう向き合っていくのか、我々クリエイターに付き突きつけられた課題は重いなと思った出来事でした。

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